研究領域の現状 235
栗 原 顕 輔 (特任准教授 (岡崎オリオンプロジェクト) ) (2 0 1 4 年 5 月 1 日着任)
A-1) 専門領域:界面化学,超分子化学
A-2) 研究課題:
a) 交差触媒系を内包するベシクル型人工細胞の創成 b) 増殖に最適な組成選択を行うベシクル系の構築
A-3) 研究活動の概略と主な成果
a) 両親媒性分子からなる中空状集合体ベシクルを,人工細胞の細胞膜として利用する。ベシクル型人工細胞が肥大増
殖するには,外部より膜分子の原料を取り込み,ベシクル内部でベシクルを構成する膜分子への変換が要請されるが, その変換反応を促す触媒はベシクルの調製時に混入させるしか⽅法がなかった。そこで本研究課題では,この触媒 分子をベシクルが自己で生産することを目標とした。当研究で用いる触媒分子はその原料をベシクルが取り込み内 部で合成されるが,この触媒分子はベシクル自己生産において,膜合成を触媒する。現在,ベシクル内部で触媒を 合成し,さらに膜分子の前駆体を取り込みベシクルが肥大分裂するダイナミクスを観察することができた。論文投 稿中である。
b) 現在の人工細胞系の膜分子,およびその前駆体は1種類に限られていた。本研究課題では,分子集合体ににあえて
異種の膜分子前駆体を添加し,その増殖ダイナミクスを見守る。この摂動により,ベシクル生産系が消滅する場合 もあろうが,やがて混合脂質系で,より堅牢に自己生産し続けるベシクルが現れる場合もあろう。このようなベシク ルの多様性は,生命起源が自己複製する脂質膜から誕生したとするリピッドワールド仮説を支持するものである。こ の指針に基づき分子を設計した。現在,自己生産するオクチルアニリンの油滴に膜分子前駆体を添加すると,自己 生産するベシクルへと形態変化する系を構築しており,論文を投稿中である。
B-1) 学術論文
K. KURIHARA, Y. OKURA, M. MATSUO, T. TOYOTA, K. SUZUKI and T. SUGAWARA, “A Recursive Vesicle- Based Model Protocell with a Primitive Model Cell Cycle,” Nat. Commun. 6, 8352 (2015).
B-4) 招待講演
栗原顕輔, 「内部で触媒を生成するベシクル」, 複雑生命システム動態研究教育拠点セミナー , 東京, 2015年 3月.
K. KURIHARA, “Catalyst-producing system in a self-reproducing giant vesicle,” International Workshop on Challenge to
Synthesizing Life, Hakone (Japan), August 2015.
栗原顕輔, 「化学で創る人工細胞」, 名大分子研リトリート研修, 岡崎, 2015年 11月.
栗原顕輔, 「触媒生成システムを内包する自己生産ベシクルの構築」, 第46回中部化学関係学協会支部連合秋季大会, 三重, 2015年 11月.
236 研究領域の現状 B-7) 学会および社会的活動
その他
あいち科学技術教育推進協議会発表会「科学三昧inあいち2014」英語発表指導 (2014). 愛知教育大学付属岡崎中学校取材 (2015).
B-8) 大学での講義,客員
総合研究大学院大学, 「統合生命科学教育プログラム」, 2015年 11月.
B-10) 競争的資金
科研費若手研究(B), 「交差触媒系を内包するベシクル型人工細胞の構築」, 栗原顕輔 (2015年 –2017年).
自然科学研究機構新分野創成センター宇宙における生命研究分野プロジェクト, 「 生命材料物質の組み立て場としてみた原 始細胞膜の基礎的研究 」, 栗原顕輔 (2015年 –2016年).
B-11) 産学連携
日本科学協会笹川科学研究助成金, 「 自己増殖するベシクル型人工細胞を用いた生命起源への挑戦」, 栗原顕輔 (2015年 –2016年).
野口研究所野口遵研究助成金, 「ドラッグデリバリーシステムを志向した自律構築型リポソームの開発 」, 栗原顕輔 (2015年 –2016年).
クリタ水・環境化学振興財団研究助成金, 「 生命誕生における水の汚れの重要性」, 栗原顕輔 (2015年 –2016年). 豊秋奨学会海外渡航費助成, 「 内部で触媒システムを生成する人工細胞の構築」, 栗原顕輔 (2015年).
C) 研究活動の課題と展望
本研究では,構成的アプローチの考え⽅から,既知の分子で「生命らしい」機能や挙動を示す物質を創成することを目的とし ている。この目標を達成するために,現在の細胞と同じ物性をもつ両親媒性分子で,人工細胞モデルを構築することが両課 題で共通となっている。課題A では,境界膜の生産を加速させる触媒を内部で合成する人工細胞モデルを構築している。
本研究では,触媒も膜分子もアルデヒドとデシルアニリンの脱水縮合によるイミン結合形成機構を利用することで,分子を 合成しているが,この反応は可逆でもあるのでベシクル膜を破壊する加水分解反応も同時に起こる。本系では,平衡を膜分 子及び触媒分子生成⽅向に偏らせることでこれを回避したが,派生実験として平衡を偏らせることなく,触媒と膜分子生産 がアニリンを介することで連動し,その生産反応が振動する系も現在構築している。また,課題B では同じくイミン結合形 成を利用しているが,油状のオクチルアニリンを用いて別相にすることで可逆反応を偏らせて,自己生産する油滴系を構築 できた。今後の課題としては,より生命らしい細胞を実現するために情報を持つ分子の封入が望まれる。現在の系では封入 が困難だが,ベシクルの調製法や組成を改良することでこの課題を解決できると考えられる。